ホワイトノイズ

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「てっちゃん!」 玄関で久しぶり、と無邪気に出迎えたトワコは、両手を広げて屈託なく笑う。 一夜明ければ人の妻になるその胸に飛び込んでいい、なんてまさか自惚れてない。 「トワコも結婚か。おめでとう。明日…行けなくてごめんな。」 トワコは視線を伏せ、唇を横に引く。 僕の知らなかった表情を見せつけられて、ただただ切なくて堪らなかった。 「ありがとう。ねえ、ご飯、てっちゃんの分もあるからね。でも先に飲んじゃお?」 「そこはダンナの帰りを待ってやれよ。」 「まだダンナじゃないけど、でも…やっぱそっか。 じゃあただ待ってるのも暇だから、そうだ、卒アル持って来る!一緒に見よ?」 アルバム。 なんて残酷なものを持っているんだろう。 僕らは2人と1人の組み合わせが流動して3人の形を守っていた筈なのに、シュウとトワコは2人だけでオトナになることを選んだのだ。 戻ってきたトワコが胸に抱えた、僕らが通った小学校の卒業アルバム。 2人で1枚ずつページをめくる。 1組から順番に、それぞれの子ども時代が写真から溢れてくるような個人写真が並ぶ。 僕は周りより随分と理屈っぽい少年だったけど。 「てっちゃんだって、すごい笑ってるよ?」 「上手いことカメラマンが笑わせるんだよな。」 それでも楽しい時期はあった。 トワコはこの先生はね、この人はね、と次から次へ写真にエピソードを加えていく。 知ってるよ? あれもこれも全部知ってる話だ。 だって全部、6年生のトワコが教えてくれたじゃないか。 全員の顔をおさらいしたら、ページはラスト1年間の行事。 時系列に並ぶ写真は、コドモという生き物がサナギから脱皮していく過程をざらざらとなぞる。 新入生の世話をした入学式、修学旅行、プール開き、林間学校、 林間学校では編集の目にも写りが良かったらしい、僕らのスリーショットがアルバムのど真ん中に貼りついている。 肩を並べ頬を寄せ屈託なく笑ってた夏の色が目に眩しくて 運動会、遠足、学芸会、 更にページをめくると、クラブ活動を紹介する見出しにトワコは一層はしゃぎだした。
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