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「何だよ、響。黙ってろ」
ギロリと睨んだ彰に「あのな、落ち着けよ」と、掌を見せる。
「そもそも陰謀なんかないんだよ」
「なんでそう言い切れる」
「何で? どう見たって江梨奈は、彰のことが好きだからだ」
キッパリした言葉に、彰は黙り込む。
だから俺は速攻で「いいか」言葉を繋げる。
「数億万歩譲って、これが陰謀だとする。で、俺がこの状況になったなら、さっさと別れてる。だってバレた時点で任務は終了だ。これ以上、面倒臭い彰の相手なんかしたくないからな。でも江梨奈を見ろ」
俺は赤く腫れた目で、切なげに彰を見つめる江梨奈へと掌を向ける。
「こんなに必死で、彰と話してるだろ。何でか分かるか? 分かるだろ? 分かってるはずだ。陰謀なんかないって。――彰はただ、自分に腹を立ててるだけだ。江梨奈が黙って俺に会ったことは、自分に足りないとこがあったせいだって。でもそれを、言いたくない……認めたくないだけだろ?」
途端彰は、大きくため息をついて目を逸らした。
その表情から、気まずさと、恥ずかしさと、苛立ちを感じる。
江梨奈は少し驚いたように「そうなの?」と瞬きを繰り返したけど、彰は答えない。
でも俺は、いま分かった。
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