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「ひどいなー、先輩。俺、めっちゃ高校時代先輩に懐いてたでしょ」
「だから図々しいってことを知ってるんだよ」
「要領いいって言ってください」
真顔でやりあう二人だが楽しそうでもあり泉はつい笑ってしまっていた。
そんな泉に気づいた涼介が身を乗り出してくる。
「そういや早川くんっていくつ?」
「二十歳です」
「わっか! いーなー、俺も二十歳に戻りたい」
「どうせお前の二十歳の頃なんて遊び回ってただけだろ」
「先輩だってそうでしょ。つーかいちいち俺の評価さげるようなこと言わないでくれます?」
「仕事はそこそこできる」
「いやそこそこじゃたいしてフォローになってませんから」
二人の会話に入りこめはしないが聞いているだけで楽しい。
高校時代のふたりもこんな風だったんだろう、きっと。
そのころ一貴はどんな高校生だったんだろうか。
一貴の年齢より、自分も数年前に通った高校時代のほうが想像するのは容易そうなのに学生の一貴のイメージは浮かんでこない。
そういえば料理が運ばれてくる前に聞いた話では二人は弓道部で一緒だったそうだ。きっと弓を構える一貴はカッコよかったんだろう。
うっかり一貴をじっと見つめてしまっていたらその視線に気づいたのか泉のほうを向きかけた。それに気づいて慌てて泉は正面を視線を移し――涼介と目が合った。
涼介が笑う。
一瞬のその笑みがどこかしら意味深なものに見えた気がしてどきりとする。
手元のコーヒーに視線を落としまた見上げると涼介はすでに一貴を見て楽しそうに喋っている。
気のせいだろうかと内心首を傾げつつ、ふたりの話は今日の売上のことや売り場のディスプレイのこと、新商品と仕事のことへ移っていった。
泉は熱を帯びる話に相槌を打つしかできなかったが一貴のもとでずっと働けたらと思いつつあったので必死に耳を傾けていた。途中から仕事からまたプライベートなこと、主に涼介のことへ移り変わっていったが。
「悪い、電話だ」
二杯目のコーヒーを飲み終えたとき、スマホのバイブ音が聞こえてきたと思えば一貴が席を立った。
ファミレスの外へと出て行く一貴を自然と目で追う泉。
「――早川くんって先輩のこと好きだよね」
不意に投げかけられた言葉に数秒遅れて泉の心臓は止まりそうになった。
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