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「え、ガチに初恋? 経験少なそうと思ったけど、初恋? もしかして全然経験もないの?」
経験少なそうの部分に少し傷つくが事実そうなので「はい」としか言いようがない。
「早川くん、男が好き、でいいんだよね」
「……そ、そうです。そうかもしれないって前から思ってはいたんですけど、店長ではっきり自覚しました」
「……ふうん、そうなんだ」
「遅い……ですよね」
二十歳になって初恋とか――童貞だとか。
酒のせいで熱を帯びたため息をついて泉はずるずるとテーブルに突っ伏した。
皿が音をたてるが気にする余裕もない。
店長のことを好きなんです、と言葉にならず思う一方で――眠くてたまらなかった。
「うーん……まぁそこは人それぞれだからいいんじゃないかな。俺は可愛いと思うよ」
可愛い? ってなんだろう。
ぽんと頭になにか乗ってきて、それが頭を撫でて、涼介の手だと知った。
「先輩が初恋か……。未経験でとんでもないハードル高いところに行っちゃったね」
「……」
「先輩は難しいと思うよ」
知ってる。だって店長はノンケだ。それくらい俺にもわかる。
口は重くて開かず、泉は心の中で返す。
恋人いるしね。
す、と涼介の声がふわふわした意識の中に滑り込んでくる。
恋人、いるんだ。そりゃそうだよな。恋人……いるんだ。
「ねぇ早川くん、俺さ――……あれ? 早川くん? 大丈夫? 水飲む? え……」
恋人いるよなぁ。
店長かっこいいもん。
ふわふわした中で考えながら――涼介の声は届いてこず、泉の意識は眠りに落ちていった。
***
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