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「へ、あぁ、いいですよ、もちろん」
「俺のことは涼介って呼んで。せっかくお互いあんまり人には言えない秘密共有したんだしさ」
秘密ーー。一瞬考えて、すぐに気づく。
そうだ俺が店長を好きなこと知ってるんだ、言ったんだ。
と、泉は無意識に口元を押さえ、一気に顔が赤くなる。
「そ、そうですね」
「それでさ、泉くん。俺、きのう君の寝顔眺めながら考えてたんだけど」
「寝顔!?」
声を上げると涼介が一歩距離を縮めた。キッチン台に追い込まれるようになった泉。
「泉くんってさ、店長が初恋。でも店長には恋人がいるしそもそもノンケだし望みはないわけだろ?」
その通り。なのだが、わかっていたことでも正直胸が痛む。
涼介から視線を逸らし、そうですね……、とボソボソ泉は呟いた。
「それで泉くんが例えば店長をいずれ諦めたときに、いや諦めなかったとしてもゲイだって自覚した泉くんに変な男が寄ってきたらーー泉くんチョロそうだからあっという間にいいようにされちゃいそうだなって思ってさ」
「……変な男?」
「そ。だって泉くん酔っぱらって寝て、いま俺の家だよ? もし俺が悪いやつだったら泉くん今頃処女喪失してたよ」
「……しょ」
処女ーー。
パクパクと口を開ける泉。二十歳になって情けないが知識はあっても経験は一切ない。友人に誘われてアダルトビデオを見たことはあるがそれは男女のもの。でも――男同士でとなると。
「なんか泉くん、危なっかしい気がするんだよな。変なヤツに引っかかってあっさり食われちゃいそう。危機感全然ないから」
心配なんだよ、と言いながら涼介がまた一歩近づいた。
「先輩のこと健気に好きな泉くんが先輩に振られたときにフラフラーーってさゲイバーなんか行ってあっさり悪い男に持ち帰られて?って簡単に想像つくんだよね」
顎に手をあてその状況を考えているのか涼介が芝居がかったため息をつく。
店長に告白なんてこと絶対にない。
けど――。
泉の中には確かに涼介の考えを全部否定できないものはあった。
一貴がノンケだと仕事上のつながりしかないとわかっていても、会うたびに好きになっていくのがわかっていたから。
これから先、自分が絶対に変わらない、とは経験不足の泉には言い切れない。
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