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「っ、でも、本当に俺店長とどうこうなりたいなんて」
言い訳のように泉は絞り出す。
「でも先輩に恋人いるって知ってショックだっただろ?」
「……」
すぐに切り返され言葉を詰まらせた。
何も言い返すことができずに顔を俯かせた。
「俺が教えてあげよっか?」
身体が触れそうなほどの距離に涼介が迫ってきて、恐る恐る見上げる。
なにを言ってるのかさっぱりわからなくて戸惑う。
「教えるって……なにを?」
もう一度尋ねると涼介はよく職場で見かける非の打ち所がない営業スマイルを浮かべた。
「行っちゃいけないゲイバーとか良心的なところとか。まあまずは実際行ってみたり?」
「……ゲイバー」
「そ。あとはこういう男には気をつけろーとか」
「……あ、あの……ゲイバー俺は行かないでも」
「そう思ってるのはいまはただ先輩のことが好きっていう素直な気持ちだけだからだろ? でもそれもそうそう長く続かないよ。いまは見てるだけでいいなんて思っても一緒に働いてたらもっと欲でてくるよ。先輩って懐に入れた相手には優しいから。泉くん気に入られてるみたいだしね。先輩がノンケだってわかってても希望抱いちゃうかもしれない」
またもや泉は言葉に詰まった。
一貴が優しいのは事実だ。仕事はテキパキとこなし、そしてみんなを気遣ってくれている。
「……あの、涼介さん。確かに……先のことはわからないけど、でも、たぶんなんとかなります。本当に、高望みなんてしないから!」
ごちゃごちゃしたものを振り切るように泉は言い切った。
だけど涼介はまた一歩踏み込んでくる。身体がぶつかって思わず後ずさろうとするがさがりようがない。
シンクの端に手をかけて逃げるように上体をそらせる泉に涼介は笑顔のまま顔を近づけた。
「うん。でもさいろいろ言ったけど、単純に俺、泉くんのこと気に入ったからいろんなこと教えてあげたいんだよね。ゲイ初心者な泉くんに――キスとか、セックスも」
耳に飛び込んだ最後の言葉に泉はフリーズした。
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