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「……早川くん、体調悪い?」
遅番で入り3時間。パソコンで商品発注をしおえて一息ついた泉はかけられた声に心臓を跳ね上がらせた。
振り向くまでもない。一貴の声だ。
忙しなく動く心臓をなだめながらひきつりそうになる顔に必死に笑みを浮かべる。
「元気ですよ」
振り向くとひと一人分ほど空けた距離に一貴がいる。
「そう? 顔色悪いよ」
いつもは癒される一貴の声、そして存在。だが今は直視できない。
「……すみません、実は二日酔いで」
俯き加減に泉は答える。
これは嘘ではなかった。今朝涼介のところで目覚めたときはなんともなかったがバタバタと逃げ出して、自分のいる場所がどこかもわからず地図アプリでようやく把握して1時間半ほどかかってようやく帰り着いたときにはひどい倦怠感と頭痛に襲われていた。
ゆっくり休んでいる暇はなかったのでシャワーを浴びてから出勤してきたのだ。
「二日酔い?」
「……すみません」
頭を下げる。一応仕事はこなしてはいるが、いつもよりのろのろとしてしまっている自覚はあった。
「そう。仕事に響くほど飲むのは控えた方がいい」
「……はい」
本当に飲みすぎた。きのうの夜は明らかに飲みすぎた。涼介のペースにいつの間にか合わせて飲んでしまっていた。
涼介の……。
「早川くん?」
心配そうな一貴と目が合い、泉は慌てて視線を逸らした。
「っ、あの、仕事がんばります!」
つい、見てしまった。
泉の視線は無意識に一貴の唇に向いてしまったのだ。
勢いよく宣言してカウンターを出る。商品補充や陳列の整理。仕事に集中する。
正直頭は今朝のアノコトでパニックのままなのだが、二日酔いのせいで深く考える余裕がない。
たまに思い出してはため息をつく、の繰り返しだ。
仕事をおろそかにはできない、と泉は集中するが早々バタバタ忙しくもなくようやく夕方の休憩に入ったときにはぐったりとしていた。二日酔いは少しましになっていたがそうなると涼介のことが頭の中にいっぱいになって落ち着かなかったのだ。
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