564人が本棚に入れています
本棚に追加
「……」
頭の中がこんがらがって泉はもたれかかっていたベッドに向きを変えて突っ伏した。
話が通じない、というより涼介が言っていることがまったく理解できない。
「泉くーん」
「……はい」
「もしかしてドン引きされてる?」
電話越しに笑う声が響いてくる。が、冗談抜きで泉は引き気味だったので返事のしようがなかった。
「ごめんごめん。ちょっといきなりすぎたね。泉くんが可愛いから調子乗っちゃった。ほんとごめんね」
「……はぁ」
「せっかく好感触だった俺のイメージがマイナスなったかな?」
「……マイナス……っていうか……宇宙人と喋ってる気分です」
涼介の会話についていくのが疲れていた泉は思わず本音を漏らした。途端に弾けるように涼介が笑い出す。
「宇宙人かー。だよね。泉くん初恋の真っ最中だもんな。水差してごめんね」
笑いをしずめた声が一転して優しくなった。耳に当てたスマホをぎゅっと握りしめて泉は戸惑う。初めてあったときから気さくで仕事のときは気にかけてくれきのうだって楽しかった。それに同じゲイで――。
「……いえ、大丈夫です。ただ……もうキスとかそういうのは……」
親しくなりたいと思ってもそれは友人としてだ。
「わかった。泉くんがしたくなったらいつでも言って」
「……は?! いや、ならないし!」
もう本当になんなんだこのひと!
流石に呆れてしまっていたらまた楽しそうな笑い声がしてきて脱力してしまう。
なんか憎めないんだよなぁ。
なんてことは涼介本人には言えないが、密かに思いつつ泉もまた小さく笑ってしまった。
「りょーかい。のんびり待ってる。あといつでも相談に乗るから、仕事も恋愛も、ね」
「仕事のほうはよろしくお願いします」
「遠慮しなくていいのに」
「してません」
「はいはい」
しょうがないなぁとでも言うような涼介の口調にそれは俺のセリフなんじゃないか? と泉は少し不満に思う。
「それじゃあまた今度。明後日くらいにはお店に顔を出します。新商品持っていくね」
「あー、はい。よろしくお願いします」
おやすみー、とあっさり電話は切れた。
スマホをベッドに放り出し、泉は床に寝転がった。
最初のコメントを投稿しよう!