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ただ泉にとっては遅い初恋で――想いが通じるとか以前に、こうして同じ職場で顔を合わせ喋ることができるだけで満足だった。
「そうだな。ラーメンでも食いに行こうかな。早川くんも一緒に行くか?」
「いっいいんですか?!」
満足ではあっても、こうして気がけてもらえると一瞬で舞い上がって声が裏返る。
泉はテンションが上がりすぎたことに気づいて口を引き結ぶと誤魔化すように口角だけ上げた。
「ああ。店を出て5分ほど歩いたところにあるんだよ、ラーメン屋」
「ぜひお供させてください!」
結局はまた声をひっくり返らせて一貴に笑われた。
「早川くんは元気だな」
口を閉じていると理知的でクールな雰囲気の一貴もかっこいいが、楽しそうな笑顔も一気に親近感が出てかっこいい。
どちらにしても店長かっこいい。
リーチが違うのか颯爽と歩く一貴に対して泉は若干早歩きになりながら、そんなことを考えつつにやけてしまう顔をさりげなく掌で擦る。
「そ、そうですか? 元気だけが取り柄なんで!」
大きな声で返事をすると一貴は口元に手の甲をあて、吹き出していた。
「その調子で店がオープンしてもがんばってくれよ。ラーメンは奢ってやるから」
ああでもほかのメンバーには内緒な。
口元の手をそのまま人差し指を立てて、秘密だぞ、と言う一貴に泉はこれが恋ってやつかとふわふわしながら頷いた。
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