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「今日だけだぞ」
「ラッキー! じゃあ俺はこのWステーキで!」
「……お前遠慮ってものを知らないな」
涼介が頼んだものは一貴が頼んだものよりも高いものだった。
一貴は呆れてはいるが気分を害した様子もなく「次は俺が持ちますから」と涼介の屈託のなさに「その言葉忘れるなよ」とにやりと笑い返している。
長年の付き合いを感じさせるやり取りに呆けていた泉は「ってことだから、早川さんも遠慮なく頼んでください」と涼介に促され、戸惑って一貴を見上げた。
「こいつの言う通り今日は遠慮なく頼んでくれていいから。早く頼んで食おう。腹が減った」
ほら、とメニューを押し付けられたらそれ以上断るのも悪く、ありがとうございます、と泉はようやく目移りする料理の数々から選び始めた。
男三人の食事はあっという間だ。
泉はハンバーグとミックスフライセットを注文していた。食べてる最中はみんなお腹が空いていたのもあってかほぼ無言だった。
最初遠慮がちだった泉だがほか二人が勢いよく食べていくのを見て同じようにガツガツ食べ始めた。
「はー、腹いっぱい。奢りで食べる飯は美味しいですね。ね、早川さん」
満足気に食後のコーヒーを飲みながらにこやかに涼介が話しかけてくる。
「え、っと……美味しかったです。ごちそうさまです」
隣の一貴へと軽く頭を下げる。
「いや。次は焼肉でも奢ってやるよ」
「やったー!」
「お前には言ってないだろ」
「よかったですね、早川さん」
涼介のノリに乗っていいのかわからず曖昧に笑いながら泉は気になっていたことを切り出した。
「あの、八木さん、俺のことさん付けしなくて大丈夫ですよ。俺のほうが年下だし、ただのバイトですし」
涼介から早川さん、と呼ばれるたびに密かに違和感を覚えていた。相手は取引先なのだし仕事上は当然なのだろうが慣れないのでどうしてもむずむずしてしまう。
「バイトかどうかとか関係ないですよ。んーでもこれから末永く仲良くしてほしいですし、うちの商品もっともっとよろしくしてほしいし、じゃあ早川くんって俺も呼んでいい?」
口調も砕けた涼介に、泉は頷く。
「早川くん、こいつ図々しいからあんまり相手にしないほうがいいよ」
一貴の後輩でもある涼介と少しだけ親しくなれた気がして嬉しかった泉は、一貴の言葉に目をしばたたかせる。
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