10人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
気が付けばもう師走。早いものね。
あたしは達也(たつや)の家の大掃除を、手伝いに来ていた。
何しろ達也ったら、大掃除を一度もした事がないとか言うんだもの。年末になったら忙しくなるから、今の内に片付けてしまおうとあたしが提案したのだった。
「うわ」
カラーボックスを移動させると、裏側に落ちたピアスやリングや綿埃が一緒くたになって現れる。
よくこんな部屋で暮らせるわね……。あたしは呆れながら、こまごまとしたアクセサリーを拾って埃を払う。
「……ん?」
達也はシンプルなシルバーのピアスが多かったけど、中に一つ、真っ赤なサクランボのピアスがあった。
これは、どう見ても女性ものね。あたしは見なかったフリをして、それをゴミ箱に直行させる。
「……達也?」
ふと、寝室が静まり返っているのが気になった。さっきまで、本棚を片付けるガタガタという音がしていたのに。
崩れてきた本の、下敷きになってるんじゃないかしら。あたしは心配になって、覗きにいった。
「達也……」
あたしが声をかけると、達也は慌てて、開いていた大きな本を閉じて後ろに追いやった。
「ん!? 何だ!?」
不必要に大きな声。よっぽど誤魔化したいものらしいわね。あたしは敢えて触れず、その本の外装だけを記憶に留めた。
「静かになったから、心配になって」
「あ、ああ。大丈夫だ。昔買った漫画に、つい見入っちまって」
嘘ね。達也は嘘を吐く時、右目の下が僅かにだけど痙攣する。無修正のエッチな本でも隠してるのかしら。
その後は順調に掃除とゴミの分別を済ませ、達也の部屋は随分サッパリとしたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!