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うまい話はないものだ
「用意が整いました」
沈黙を破る良いタイミングで従僕だろう幼げな声がノックと共に聞こえた。
人化で鼻は動かさないが、ドア越しでも漂う臭気は食べ物だとわかる。
「我々はこの辺で。あとは王から聞かれよ」
ウォークは席を立ち手でドアの方へと促す。
「王に会わないと駄目か」
あの女王の名前をもう忘れたぞ。何だっけ。
「会食ですな。今日位は気楽に過ごして貰いたいからの。あの子について行きなされ」
「食事は誘拐とまで言われたからな。せめてもの詫びだ」
いやいや普通衣食住提供だろうに。騎士団長と魔法師長は魔狼を見送る。
「こちらです」
「頼む」
「えっ」
そばかすのある丸い顔の少女は驚いて俺を見た途端にボッと林檎色に染まり、前に向き直った。
「は、はい。ここを真っ直ぐです!」
「そうか」
正直に言う。前世はありきたりな低い鼻に線一本で書ける顔だった。整ってはいたけど標準で自ら望んで存在は空気。そしてこの世で魔狼の姿は獣らしく雄々しく美しく、人化した俺は超イケメンだ。
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