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正直なところ、少年にはこうする理由は特になかった。
だけど、どうしてか自分はこうするしかないのだとわかっていた。
目標も、大義も、意味さえないと思っていたのに。
「やるしかないんだ」
周囲を押し潰さんとばかりに満ち溢れる悍ましいプレッシャー。息も詰まる地獄のような空間に立つ少年は自分に言い聞かせるように呟いた。そうすれば自ずと、向かい合う相手にも聞こえるはずだから。
四方は分厚い壁で覆われ、その表面を埋め尽くす淡い白光の円模様は強固な結界だ。音も匂いも、衝撃さえも逃がしはしない鉄壁の守り。
見方を変えればそれは、絶対に壊れない檻でもある。
「俺にはもう、それしかないってわかったから」
肌を撫でる凶悪な空気。
見据える相手は大きくゆっくりと息を吐く。
垂れ下がるグレーの髪の奥から赤い瞳を向けてくる。
『奴』は言った。
『来なさい、哀れな欠陥品よ』
「言われるまでもねえ」
唯一の出入口である扉の奥で、メイド服に身を包んだ一人の女性が首にかけられた銀の十字架を両手で握り、主の武運を祈る。
「絶対に跪かせてやる―――覚悟しやがれ悪魔さまッ!!!」
少年が駆ける。
悪魔が迎える。
その激突が全ての始まり。彼の偉大なる第一歩となる死闘。
少年―――鈴重 夜道(すすしげよみち)の物語は、ここから始まる。
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