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「いえ、得意というほどでは……かえって邪魔をしてしまったら申し訳ないですし」
「でも、俺の予知も以下略なんで、手伝ってもらえるならその方が助かるな」
「以下略、とは?」
「いえいえ、そちらもお気になさらずに」
首をかしげた桜木に手を振り、マスターは話を本筋へと戻す。
「どうでしょう桜木さん、三剣大臣にもかかわってくる事ですし、お力をお貸し願えないでしょうか?」
しばらく悩んでいた彼女だったが、断り切れないと感じたのか、やがて小さく息をついた。
「承知いたしました。……ただ、本当にお力になれる自信はありません。最善は尽くしますが」
「ありがとうございます。我々の中には追跡を得意とする者もおりませんし、アパートのシステムも復旧途中なので、大変助かります」
「では、先ほど影が目撃された場所へと向かってみましょう」
「こっちです!」
すでにそちらへと近づいていた理沙が、手招きをする。足は自然と速まり、すぐに目的地に到着した。長い廊下が一度途切れ、左右に道が伸びている、ちょうどTの字の交差する部分だった。
「影は、どちらに走っていきましたか?」
「あっちから見た時は、右から左だったから、こっちですね。すごく速かったです」
桜木は理沙が指差した方を見て、少し考えるように沈黙する。そして腰に付けた小さなバッグから、先の尖った金属製の道具を取り出した。
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