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「ペンデュラムね」
「ええ。これで侵入者の痕跡を追います」
興味深げに覗き込むマリーへと頷くと、彼女はペンデュラムを握りしめて何事かを呟く。それから鎖の部分を持ち、三角錐のおもりを床近くへと垂らした。おもりは自然と揺れ、回転をし始める。
やがて、見えない力に強く引かれるように、真っすぐ通路の先を指し示した。
「こちらで間違いないようですね。参りましょう」
呼吸を忘れて見守っていた周囲も、きびきびと歩き出す桜木の後へと続く。しばらく無言で歩いている間にもアパートは何度か揺れたが、気にせず進んだ。
そしていくつかの扉の前を通りすぎ、大きな窓がある場所を通った時のことだった。
「あっ」
小さく声をあげたのは、理沙。視線の先には、桜木の持つペンデュラムがある。それはかかった魚が引く釣り針のように、勢いよく窓へと向いている。
皆、一斉に窓の外を見た。薄暗くはなっていたが、庭の木々の形も確認できる。その隙間に――影が走った。
「見つけた! ――はっ!」
理沙が壁へと素早く手をつく。壁を挟んだ向こう側の空気が振動し、影を絡めとろうとしたが、それは難なくかわされた。
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