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「もう、管轄区にもいないってことですか?」
祥太郎の問いに、マスターは視線を横へと移す。
「マリー君と理沙君はどう思うかな?」
二人は顔を見合わせた。少し考えた後、理沙が自信のなさそうな表情で言う。
「管轄区内のことは分からないんですけど、この近辺にはもう居ないと思います。ただ……手ごたえみたいなのが、なかったんですよね」
「確かになかったかも、手ごたえ」
それを聞き、マリーも頷いた。
「もしかしたら、魔法で作った幻みたいなものだったとか? 何だか、やけに小さかった気がしますし」
「ああ。先ほどのは陽動目的で、実際の犯人はその間に逃げてしまったのかもしれないね」
「それだと、マズくないですか? 源二さんや、マスターの立場も危うくなるんじゃ?」
声を潜めた祥太郎へ、優しいまなざしが返ってくる。
「そうなったらなったで、仕方ないことだよ。私たちは間違った事をしたとは思っていないしね。何とか乗り切るさ」
「でも――」
「ちょっと失礼」
マスターは唐突に言って、ポケットに手を入れた。そこから銀色の懐中時計を取り出し、何やら確認を始める。
「……成る程、源二には何か考えがあるようだ」
「それ、時計じゃないんですか?」
「そうだよ。少し変わってるけどね」
そう笑って、マスターは蓋を閉じた。
「あとは、あいつに任せるとしよう」
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