嵐の後に

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 ◇ 「……お役に立てず、申し訳ありませんでした」 「ええやないの。元々うちらの仕事やないんやし。手伝うてあげただけでもマシやって」 「江上秘書官!」 「いえいえ、本当に、手伝っていただいただけで十分です。ありがとうございました」  マスターに頭を下げられ、桜木は口から出掛かった言葉をぐっと飲みこんでから、頭を下げ返す。 「ほな、うちらはこれで帰りますー。またお会いした時は仲良うしてくださいね。ほら桜木ちゃん。あんまお邪魔してても悪いし、帰ろ」 「貴女という人は、本当に自分勝手ですね! ――では、これで失礼いたします」  彼女はもう一度深々とお辞儀をしてから、歩き出した友里亜の後を追った。 「ゆりあっちと桜木さん、またなー!」  小さくなっていく二人へと手を振る才の後ろで、マリーは大きくため息をつく。 「マリーちゃん、疲れた?」  気遣った理沙へと曖昧に頷いてから、彼女は呟くように言った。 「……それもあるけど、切り替えがずいぶん早いんだと思って」  それから、ちらりと才の背中を見る。 「トーコが居なくなったばかりなのに、美人秘書官相手に、あんなにはしゃいで」 「遠子君とは、今生の別れという訳じゃない。また会えるさ。エレナ君とも、きっとね」 「それは……わたしもそう信じてますけど。このお仕事をしていれば、少なくない出来事だっていうのも理解してるつもりですし」
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