嵐の後に

30/33
前へ
/415ページ
次へ
「……もう修復は終わったようだね」  少しの沈黙の後、マスターは話題を変えた。確かにアパートの揺れは、いつの間にか収まっている。 「皆も今日は休んでくれ。お疲れ様」 「はい。お疲れ様です」 「マスターも皆さんも、お疲れ様でした!」 「お疲れっす! ――あれっ? マリーちゃんも、もう帰ったん?」 「気づくの遅いなー」  三人が話している間にも、マスターは歩き始めていた。ポケットから出てきた手には、銀色に光る物が見えた。  ◇ 「なぁ、あそこ自販機とベンチある! 桜木ちゃん、ちょっと休まへん?」 「もうですか? 大して歩いてないでしょう」  アパートからの帰り道、友里亜がそんなことを言い出したかと思うと、さっさと自販機の方へと行ってしまう。桜木は渋々といった態度を隠さずについていった。 「だってもう夜なのに、暑いんやもん。熱中症、こわいんやで。――何だかんだで付きおうてくれるし、優しいとこあるよな。桜木ちゃん」 「だから大臣に貴女を連れ戻すように言われてるから、仕方なくです!」 「はい。アイスコーヒーでええ?」  語気を強めても屈託のない笑顔で缶を渡される。桜木はため息をつきながらも、それを受け取った。 「……いただきます」  それからベンチに並んで座り、しばらく無言で飲み物を飲む。  オレンジがかった街頭の下、二人以外はあたりに誰もいなかった。
/415ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加