85人が本棚に入れています
本棚に追加
「でもなぁ。良かったよなぁ、上手く行って」
ぽつりと言った友里亜に、桜木は怪訝な顔をする。
「何がですか? 結局、曲者は発見できませんでした。私の力も及ばず」
「せやねぇ。桜木ちゃん、別に追跡が得意なわけやないしなぁ」
「だから私は最初からそう言ったのに……江上秘書官があんなことを言うからですよ」
「せやねぇ」
ため息をつく彼女へ微笑みが返ってくる。友里亜はそれからバッグをごそごそとやり、中から花柄の煙管を取り出すと、火をつけた。
「ちょっと、管轄区内は禁煙ですよ!」
「もぅ、桜木ちゃんは相変わらずお堅いなぁ。大丈夫。これ、タバコやないし。ええ匂いがするんやもん」
「またそういう屁理屈を……」
今日何度目になるか分からないため息の隣で、白い煙がふぅ、と吹かれる。確かにそれは、よく知る煙草とは異なる、不思議な香りではあった。
「……桜木ちゃんが得意なんは、追跡やなくて、隠す方よな」
「おっしゃってる意味を理解しかねます」
桜木は表情を崩さないまま、缶コーヒーを静かに傾ける。友里亜はもう一度、煙をゆっくりと吐き出した。
「あの場で一番気ぃつけなあかんのは、マスターや。他には、そういうのに聡い理沙ちゃん、マリーちゃん。才ちゃんの予知は……どうやろう」
「だから何を――」
「どんくさい同僚の秘書官なんか、最初から眼中にないやんなぁ?」
最初のコメントを投稿しよう!