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そしてまた煙管を咥え、煙を勢いよく吐き出す。今度は避けることもかなわず、桜木は大きくせき込んだ。
「桜木ちゃん。うちの『お願い』、聞いてくれるな?」
次に顔をあげた時、彼女の目は、まるで泥酔でもしたかのように据わっていた。
「……はい、勿論です」
「今度の件は、『ゲートの暴発によりストームが発生。ゲートキーパー1名が巻き込まれ異世界へと転移、生死不明』。こんなとこでええんとちゃう?」
「はい、おっしゃる通りだと思います」
「ほな、ちゃんと、あんたの『ご主人様』に、報告しといてな?」
「かしこまりました」
「よし、ほなこれで、『おしまい』! ――帰ろか」
目の前で手が叩かれると、一瞬にして桜木の表情は元に戻り、それから急激に歪められる。
「けほっ――煙たい! 吸いすぎですよ! いい加減にしてください、江上秘書官!」
「ごめんな、つい調子に乗ってもうて」
「もういいですから、さっさと帰りましょう。行きますよ」
「ちょ、待ってー、桜木ちゃん! 歩くの速いー!」
友里亜は少しだけアパートの方を振り向き、微笑んでから、早足で遠ざかる背中を急いで追いかけた。
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