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そして、足りない要素はもう一人。
「そういえば、理沙君はいないのだね」
「そうなんですよ。もう昼近いのに、理沙ちゃんが来ないのって珍しいですよね」
マスターの視線につられ、祥太郎も何気なく部屋の中を見た。
普段なら理沙は早朝に起きてトレーニングをし、朝食をとるとまずはミーティングルームに顔を出す。特に仕事がなければ別の場所に行くことはあっても、挨拶にすら来ないというのは珍しかった。
マリーはスマホの画面を確認し、小さく首をかしげる。
「送ったメッセージも確認してないみたいだし、わたし、様子を見に行ってこようかしら」
「でもさ、理沙ちゃんだって、そういう時もあんじゃねーの? 昨日も大変だったしさ。何か急な用事でもあんのかもしんねーし」
「それは、そうだけど……」
「まー、そこら辺ゆるいじゃん? この仕事。祥太郎なんて寝坊ばっかだからな」
「おい! 僕だってそんな――まあ、そういう時もそれなりにあるかもしれないけど……」
「おや、噂をすれば、かな」
その時、ドアの前で人が立ち止まる気配がした。しかし、何かをためらっているのか、中々入ってこようとはしない。
マリーが様子を見に行こうと立ち上がりかけた時、ようやくガチャリ、と扉が開く。
「すみません。あのぅ……」
その隙間からは、青ざめた理沙の顔が、ゆっくりと出てきた。
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