師匠と弟子

3/20

85人が本棚に入れています
本棚に追加
/415ページ
 そして、足りない要素はもう一人。 「そういえば、理沙君はいないのだね」 「そうなんですよ。もう昼近いのに、理沙ちゃんが来ないのって珍しいですよね」  マスターの視線につられ、祥太郎も何気なく部屋の中を見た。  普段なら理沙は早朝に起きてトレーニングをし、朝食をとるとまずはミーティングルームに顔を出す。特に仕事がなければ別の場所に行くことはあっても、挨拶にすら来ないというのは珍しかった。  マリーはスマホの画面を確認し、小さく首をかしげる。 「送ったメッセージも確認してないみたいだし、わたし、様子を見に行ってこようかしら」 「でもさ、理沙ちゃんだって、そういう時もあんじゃねーの? 昨日も大変だったしさ。何か急な用事でもあんのかもしんねーし」 「それは、そうだけど……」 「まー、そこら辺ゆるいじゃん? この仕事。祥太郎なんて寝坊ばっかだからな」 「おい! 僕だってそんな――まあ、そういう時もそれなりにあるかもしれないけど……」 「おや、噂をすれば、かな」  その時、ドアの前で人が立ち止まる気配がした。しかし、何かをためらっているのか、中々入ってこようとはしない。  マリーが様子を見に行こうと立ち上がりかけた時、ようやくガチャリ、と扉が開く。 「すみません。あのぅ……」  その隙間からは、青ざめた理沙の顔が、ゆっくりと出てきた。
/415ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加