布石

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 ◇ 「もう、無理……!」  マリーは、機材の陰でうずくまる。聞こえてくる歓声も拍手も、パフォーマンスを始めた当初とは比べ物にならないくらい大きい。 「マリーちゃん、お客さんたちが待ってるよ! あと残り5曲、半分まで来たんだからすごいよ!」 「確かに下手とはいえ、我ながらこの短期間でよく10曲も覚えたと思うわ。でも、そもそも何故こんなことしてるのかしらって我に返っちゃうと、もう無理なの……!」 「きっと、どんなお仕事でもそういう時ってあるものなんだよ。だけどお客さんもいつの間にかあんなに集まってくれてるし、頑張ろう? マリーちゃんの歌だってダンスだって、すごくかわいいって喜んでもらえて、みんなを笑顔にしてるんだよ!」 「リサのその順応力の高さ、素直にすごいと思うわ……」  本職のアイドルさながらの笑顔で励ましてくる理沙(りさ)に、(おそ)れにも似た感情を抱くマリー。戸惑いながら会場に目を向けた時、違和感をおぼえた。そういう気配には二人とも敏感だ。示し合わずともいつの間にか同じ方向を見ている。 「マリーちゃん、あれ何だろう?」  観客の中に、明らかに妙なモノが混じっていた。子供の背丈ほどもある半透明の物体。それが会場の熱気とともにゆらゆらと揺れている。 「クラゲのオバケ? それとも、てるてるぼうずのオバケかな?」 「オバ……そんなのじゃなくて恐らく、『ブロット』だわ。わたしも資料でしか見たことはないけれど、ここ最近増えてるってママも言ってたから」  マリーは軽く身震いしつつ答える。『ブロット(染み)』と名づけられたそれは、『ゲート』を通過して来るのではなく、隙間鬼(すきまおに)のように『隙間』からやってくる存在。その中の一部が引き起こす騒動は心霊現象と呼ばれることもあるため、理沙の言葉もあながち間違いではなかったりする。
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