第一章

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 神聖エブルハイム帝国――王都・カルサス。  そこは北に山、南には海といった自然豊かな地であり、林業に漁業、街では製造業が盛んに行われており、商人にも人気の土地だった。  そのカルサス一の大きさを誇るロイト市場近くの路地に、一人の異様な男が立っていた。  この国には珍しい黒髪の男だ。服装はそこらの露店商などと変わらない質素な装いだが、手には長い太刀がある。  視線の先には、三人の男の姿があった。それぞれが剣などの武器を持ち、こちらを睨んでいる。 「店の利権をさっさと渡すなら、痛い目は合わずに済むぜ」  三人の内、一番恰幅の良い男が黒髪の男に言った。 「俺ら三人はな、裏の世界じゃちょいと有名でよ。『カラマーゾフの三兄弟』。知ってるだろ? 今日の俺は機嫌がいい。一分だけ待ってやる」  ほくそ笑みながら、言い放つが、 「その必要はない」  黒髪の男はため息をつき、 「俺も雑魚に構っている暇はないんだ。さっさとかかって来いよ」  これから嫌々子供の遊戯にでも付き合うかのように、冷めた表情を向けた。 「てっめぇ! ぶっ殺してやる!」  憤慨した三人は黒髪の男に襲い掛かる。 「動きが素人だ」  そう呟いた黒髪の男は、太刀も抜かず、ただ身を動かし三人の攻撃を避けていく。 「三人がかりだぞ……? な、何で当たらねぇんだよ……?」  恰幅の良い男が、驚きと焦りを混ぜたような顔をする。 「これがお前たちと俺との差だ。それが分かったらさっさとこの件から手をひけ。もし、どうしてもあの店の利権が欲しいって言うのなら、俺もそれ相応に相手をしなくちゃならんがな」 「避けているだけのくせに偉そうに……」 「なら、試してみるか?」  そう言い、黒髪の男は太刀の鯉口を切る。 「く、くそ!」  自分たちでも力量差を感じていたのだろう。三人はすぐさま身を翻し、去って行った。 「逃げることはいっちょ前か……もう出てきてもいいぞ」  肩口から後方へ声を掛けると、頬のこけた男が建物の影から姿を現した。依頼人の商人である。軽く一揖した後、おもむろにポケットから革袋を取り出し、黒髪の男に差し出した。 「これ、護衛のお金です」
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