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第二章
この日、本来待機しているべき陣営のテントを離れ、二人で近くの丘にやってきた。
「ん~、気持ちいい」
背をグッと伸ばし、手を広げた彼女は、目を細めた。艶やかしい金色の長髪がしなやかに揺れる。
視界の先には蒼穹が広がり、靡く風が心地よい。人工物が一切ない、緑の広がったこの場所で二人は腰を下ろした。
「最近はさ、いろいろあって二人っきりになれなかったでしょ?」
「そうだな」
並んで座ると、彼女はこちらに向けて笑みを浮かべた。
「寂しかった?」
「別に」
「うっわ……こういう時は素直に『ああ、フィオナがいなくて寂しかった。ずっと傍にいてくれ』って言うもんでしょ?」
「お前がどういう妄想をしているかは知らんが、俺がそんなことを言わんことは、お前自身がよく知っているだろう?」
「器が小さいなぁ、ヴィルは。愛のささやきの一つや二つ使いこなさないと、女の子は逃げていきますよぉだ」
「なら、お前は逃げるのか?」
「え?」
「お前は愛を囁かない俺の元からいなくなるのか?」
「い、いやぁ……それは……てか、いきなり何を言って……」
困ったように目を泳がせる。
「確かにお前の言っていることは分かるが、俺はそういった言葉には機があると思う。相手に想いを伝えるのは大切だが、毎日毎日言っていては、その言葉の重みが薄れるだろう? だから俺は言わんのだ」
「……なんか上手く逃げられた気がする」
彼女は眉根を寄せる。あまり納得がいっていないようだ。なら――。
「……今回だけだ」
嘆息交じりにそうごちると、彼女を抱き寄せた。
「お前がいなくて寂しかった。だから、この戦いが終わったら一緒に暮らそう」
彼女の首元でそう囁き、身を離すと、
「な、なななな……」
顔を真っ赤にして酷く狼狽していた。
「おい、大丈夫か?」
心配して尋ねると、返事ではなくパンチが返ってきた。当たると痛いので、一応避けておく。
「避けんな!」
「何を怒っている?」
「あ、当たり前でしょ! さっきまで『そういう言葉には機がある』とか言ってたくせに、い、いきなり『一緒に暮らそう』とか……言っている意味分かってる?」
「ああ、もちろん。で、どうなんだ? 一緒に暮らしてくれるのか?」
問うと、彼女は少し俯いたが、直ぐに顔を上げ、
「――当然じゃない。バカ」
そう言ってフィオナは相好を崩した。
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