山代 明子

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山代 明子

「おい、井原(いはら)! 宵子(よいこ)になにをした!」  十二月。  放課後の教室で一人残って日誌の手直しをしていたら、勢い良く扉が開かれた。  グラウンドからボールを打つ音と、どこかの部活の発声練習だけが届いていた静かな場所は、大股でずかずかと乗り込んできた女子生徒によって乱される。 「だ、誰ですか?」 「宵子だよ! 宵っぱりの宵に、子供の子!」  彼女はウチの制服を着ていたけれど、ビックリするほど真っ黒で短い髪の彼女に見覚えはない。鏡を見ずに自分で切ったのか、毛先は不揃いであちこち跳ねていた。  ウチのセーラー服を着ていなければ、きっと男子生徒だと思っただろう。 「よい……こ?」  宵子。  その名前は知っている。  僕の勘違いじゃなければきっと宵子は一人だけだ。  山代宵子(やましろ・よいこ)。  僕が通っている鈴鳴学園の二年生で、隣のクラスの委員長。  そして僕と同じ「級長委員会」のメンバー。  黒髪をひとつの三つ編みにして、細い銀フレームのメガネ。結構かわいい顔をしているし、仕事だってきちんとするから委員長としては優秀だけど、誰に対しても敬語なせいか少しだけ壁がある。  だけど、僕自身はそんなに悪く思っていない。なかなか会話が続かないけれど、彼女は勉強の教え方がうまい。僕は何度も、お世話になっていた。
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