呪詛の刻印

2/11
前へ
/11ページ
次へ
◇  ガラスケースの中に飾られたそのペンダントを、佐川美砂(さがわみさ)は魅入られたように見つめていた。  細いチェーンの先に下がっているのは、大きさにして2cmほど、甲虫を模した鈍い金色のアクセサリー。  おそらくはスカラベをモチーフとしたものだろう。 「何かお捜しの品がおありですか?」  背後からかけられた声に驚いて振り返ると、そこに店の主らしき男が立っていた。  女性の美砂より頭ひとつ背が低く、しわ深い顔は多分70過ぎの老人。  丁寧な言葉づかいとは裏腹に、眼鏡越しに眠たげな目で見上げるその表情には、お世辞にも愛想というものが感じられない。  もっともここが昼なお薄暗い骨董品屋の店内であることを思えば、この陰気な老人こそ店主としてふさわしい人物といえるだろう。  そもそも美砂自身に骨董品を収集する趣味はないし、今日外出した目的もお中元の品や新しい洋服など見繕うための、ごく普通のショッピングだった。  しかし駅前のショッピングモールに向かう途中でふと見かけた小さなアンティークショップが妙に気にかかり、吸い込まれるようについフラリと踏み込んでしまったのだ。  奇妙な店だった。  絵画や洋風アンティーク家具あたりならまだしも、商品棚に並べられているのはアジア・アフリカ地域の民芸品と思しき 木彫りの人形や楽器、アクセサリー、その他得体の知れぬ雑貨ばかり。  どこの国のものかは知らないが、鬼か悪魔を模したような等身大の木像が鎮座し、こちらを睨み付けている。  好事家にとっては垂涎の品揃えかもしれないが、美砂の目から見ればアンティークショップというより単なるお化け屋敷だ。 (何よこれ? 薄気味悪い)  そう思ってすぐに立ち去ろうとした時、店内の一角に置かれたガラスケースと、その中に置かれたこのスカラベのペンダントがふと目に止まった。  他の商品が無造作に棚に並べられてあるのに比べ、このペンダントだけはわざわざケースに収めてあるところから見て、この店の品としてはかなりの貴重品。いわば「目玉商品」といったところであろう。  店主の方もすぐ美砂の視線に気付いたらしい。 「ほほう、なかなかお目が高い。早速そのペンダントに目を留められるとは」 「これ、スカラベよね? お守りか何か?」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加