呪詛の刻印

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 美砂は何となく尋ねてみた。  実際、スカラベをモチーフにしたジュエリーやアクセサリーは多い。  和名では「フンコロガシ」と身も蓋もないが、古代エジプトにおいては神聖な虫として崇められており、お守りや魔除けのアクセサリーとしてよく販売されているという話は、何かの雑誌で読んだ覚えがある。  もちろん彼女はオカルトマニアではない。  ただTVや雑誌などでたまに見かける星占い、風水占い、幸運を呼び込むパワーストーンといった話題には、他の若い女性と同じ程度に興味くらいはある。  なぜ自分がこのペンダントに惹かれるのかよく分からないが、とりあえず話だけ聞いたらさっさと店を出るつもりだった。 「お守り……ですか」  店主は眠たげな半眼のまま、一瞬何かを考え込んでいる様子だったが。 「……まあそれでも間違いはないのですが……こいつはちょっと『特別』な品なんですよ」 「どういう意味?」 「こいつは持ち主の願いを叶える魔力を持っています。いえ、もちろん信じるかどうかはあなた次第ですが」 「まあ。それは便利なお守りね」  美砂は思わずクスリと笑った。 「まるでアラジンの魔法のランプみたい」 「いえ、それほど便利なものじゃありません。何せこいつが願いを叶えてくれるのはたった一度きりですから」 「ああ、なるほどね。確かに何度でも願いが叶う魔法のペンダントなら、そもそも持ち主が手放すわけないでしょうし」 「……それと、こいつが叶える願いの内容もただ1つです。何でもというわけじゃありません」 「どんな願い?」 「ジュサツですよ」 「え……?」  店主の口にした言葉が「呪殺」であると理解するのに、僅かな間を必要とした。 「元はといえば、古代エジプトの貴族が政敵を暗殺するため、お抱えの呪術師に作らせたのが起源といわれております」  美砂の顔から笑いが消えた。  内心の動揺を悟られまいと、店主から顔を逸らし、再びガラスケースの中を見やる。 「それ本当? じゃあ元の持ち主は……これを使って誰か殺したの?」 「さあ、そこまでは……私自身も、エジプトでこいつを仕入れる時に、現地の商人からおおまかな由来を聞いただけですから」 「何か、特別な儀式とか呪文とかあるのかしら? あ、ただ面白そうだから聞いてるだけよ? 別に誰かを呪いたいとか、そんなんじゃないからね」
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