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むっつり無愛想だった老人が、初めてニタリと笑った。
(ご安心ください。お客様の秘密は守りますから)
――そう言っているかのようだ。
「儀式も呪文も必要ありません。ただそいつを地肌に直接触れるように身につけ、強く念じるだけです。繰り返し申し上げますが、呪い殺せる相手はただ1人だけですよ?」
「……おいくらかしら?」
「7万円です」
「高いのね」
「むろん興味のない人間にとっては一文の値打ちもないシロモノですな。ですが……こいつを『本当に必要とする人間』でしたら、たとえ十倍の額を払っても充分おつりがくるというものでしょう」
ペンダントの値段は、奇しくも美砂がいま財布に入れている手持ちのキャッシュとほぼ同額だった。
決して安くはないが、無理すれば何とか買える――まるでそこまで見透かしたような金額である。
「カードは……使えないわよね?」
「申し訳ございませんが」
「……」
彼女が即答を避けて床に視線を落とすと、店主は目を細め、新たな提案を持ち出した。
「ではこうしましょう。もしこのペンダントをお買い上げになって効果が……あ、いえ、ご満足頂けないようでしたら、いつでも返品に応じますよ? 品物を当店まで持ち込んで下されば代金はそっくりお返しします」
その言葉に背中を押され、美砂は震える手でバッグから財布を取り出した。
「……頂くわ」
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