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五月六日、晴れ。
今日はいつもより雲が空にかかっていた。
「成績優秀、容姿端麗な奴が三月以外にいるなんて思わなかった。」
「そうでもないだろ」
「俺はお前を支持するけどな。アイツ何を考えているか分からない」
「まだ転校してきて一か月だからだよ。仲良くしてやれ」
今年も学年の委員長選挙が行われている。星野は幼馴染である高峰健太が委員長選挙のことについて話しているのだと気づいた。蒼井の方を見ると明るく、しかしどこかぎこちなく笑っているように見えた。
委員長とはクラスだけでなくその学年を取り仕切るトップのことである。講師と同じ権力があり、いわば生徒の意見を代表して反映させることを目的とした人形だと星野は思っていた。
二年連続委員長を全うした星野が高校三年の委員長になることに誰も反対しないのは明白だった。星野自身もそれが最初から決まっていたかのように受け入れている。慣れた仕事だ。日常生活のルーチンワークと変わらない。だが、今年は蒼井の存在で多少学院はざわついていた。
「蒼井、山野先生が呼んでいた。また、怒られるようなことをしたのか」
「どうしてそう思うんですか」
「いつもより体温が高く」
「薬を飲んでいたから」
「そうだ。」
怒ることは身体に悪い。にこやかに生きることは心身共に良いもので、相手との関係性を壊さない。社会推進協会の言葉だ。しかし、怒りがわいても配られている薬を服用すれば落ち着く。担任の山野が飲んでいたのはそれだった。
蒼井は品行方正とは言えなかった。最初は転校生であること、養父がフラン教授という科学者であること、彼自身の容姿と能力についてのことで生徒も講師も期待と好奇心で注目していた。しかし、蒼井は成績優秀ではあったが授業をまともに受けない、昔の時代にあった書物を読みふけっている。当然周りに合わせない雰囲気を嫌う者もいれば、憧れる者も出てきた。
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