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壁だったところはあの後、扉に変化した。真っ暗な通路を小さな明かりが照らしている。
「この場所は一体」
「ついてくれば分かる。」
通路を真っすぐ進むと卵型のカプセルがいくつも並んでいた。蒼井は慣れた手つきで右の壁にある棚から小さい長方形のようなものを取り出す。
「この先何が起こるか分からないからバックアップをしてもらう」
「バックアップとは」
「このSBっていう機械にお前の記憶を保存するんだ。そこのゆりかごを使ってな」
スモール・ブレイン。通称SB。卵型の機械・ゆりかごは記憶をSBに保存するためのものだった。
「怖くない。あっという間だ。どうする?」
「問題ない」
空いているゆりかごに座り、頭にヘッドホンを付ける。すると、機械的な音声と共にゆりかごの扉が閉まった。蒼井がSBを差したのだ。
『個体:ホシノ ミツキ 記憶保存 承認』
「うっ、ああぁ!」
脳内で生まれてから今日までの日々をテレビの早送り状態で見た気分だった。
「星野」
名前を呼ばれはっとした。もう保存は終わっていたようで蒼井が怪訝な顔でこちらを見ていた。ゆりかごの扉も開いており、蒼井はSBを差し出した。
「悪いが、仕事だ。ついてくるなら絶対俺から離れるなよ」
SBを受け取り蒼井スバルというネームプレートがかかっているロッカーに入れるよう指示された。
「後で星野用のロッカー作ってもらうから今日はここに入れておいてくれ。あと、これは外に出る時に着る服。さっさと」
「着て何かやましいことでもするんだろう?早く準備しよう」
「ああ、そうだな。やましくはないが刺激的かもな」
服を下着以外全て脱ぎ、黒のパワースーツを着る。サイズは少し大きいが動くのに支障はない。今日起きたことを手帳に書き込んだ。
「何をしているんだ」
「昔から気になったことを書き留めるのが癖なんだよ」
「癖、か」
「変だとよく言われるよ。手帳なんてもの使わずに携帯ノートに記録させればいいのにって」
「書くより機械に記録させた方が楽だからな」
「ああ。でも、これをしている時は落ち着くんだ」
ある程度書き込んだ時にアナウンスが流れ、蒼井に連れられ進んでいく。行く先が分からないまま鉄の大きな扉が見えてきた。同じような服を着た人たちも見える。
「さあ、始めようか」
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