0人が本棚に入れています
本棚に追加
名前はないと、どうして理解してもらえないのだろう。
もちろん怒りなどは感じない。自分がどうしてできたのかは知らないが、おそらく人と生きるためだ。善か悪かは別として。
人が好きか嫌いかも考えない。たまに面白いと感じるし、面倒だとも思う。それだけだ。
反対に主人は意味を見つけたがる。Jが生まれた意味。共に過ごす意味。
彼を脅威に感じる主人もいた。
おまえは自然だ、とその人は言った。自然に悪意はない。ただ時として人に牙を剥く。恩恵もあれば災いをなすこともあると。
Jは何も答えなかった。考えるということ自体、そのころはほとんどできなかった。黙る彼を主人は余計恐れた。そして崇めた。
ばかばかしい、と今は思う。人は人の尺度でしか考えられない。
あの主人はつまり、Jに適当な名前を付けたかったのだ。悪魔か、神か。
そのどちらでもない、むしろ何でもない、ということが理解してもらえない。
自然というならそうなのだろう。
Jは風だ。実体はないのに時として圧力を持って存在感を発揮する。風は家を吹き飛ばすかもしれない。だからといって悪魔か神かを判断する必要はない。
風は風だ。自覚も意図もない。敵にも味方にもなりようがない。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!