ある夜

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これ以上自覚を持つのはまずい、と思う。直後に、何に対してまずいのか、と問う。 使い魔が人そのものになっては不便だろう。 しかし、人だって人のために働くのだ。仮に自分がただの青年になったとしても、ユーミンは困らないかもしれない。 では、自分は困るだろうか。 そんなことはない。そもそも「自分」がない生き物なのだから。 矛盾している。 自分がないはずなのに、できつつあるから起こる矛盾だ。この変化はどこかで絶ったほうがよいのか。それとも、自分はそういう生き物なのだろうか。 誰かに聞くこともできないのが時々歯がゆい。 白い布団のうえで丸くなる小さな哺乳類に目をやる。 また天井から音がした。 「……どうかしたの?」 目が冴えてしまったらしいリタが小さな目を向ける。 「いや」 警戒されているのを感じつつ、椅子に腰かける。リタはまるで人間の女だ。少女の部屋に青年の姿があることに落ち着かないらしい。 見るともなし壁紙に目を遣る。古い世界地図が貼られている。どれほど正確なのかは知らない。ユーミンとともにこの家へ越してきたときからあった。 Jはそれを見るたび、どこか疎外感を覚えた。自分が生まれたのはおそらくその地図には載っていない場所だ。そこがどこかはわからないけれど。     
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