0人が本棚に入れています
本棚に追加
ユーミンが動いた。眠りが浅くなったのか、寝返りを打つついでに布団から少し顔を出す。
「…………」
吐息と一体化した声で小さくJの名を呼んだ気がした。
軽く返事を返す。はっきり起きたわけではない。少女はすぐに目を閉じた。
――ジェイ。
耳に届いた声がなぜか過去の音声を呼び起こす。
――ジャク。
ひどく古い記憶だ。いや――ひょっとすると案外最近なのかもしれない。年を取る感覚がないので、はっきりとは思い出せない。何代か前の主人だ。やはり、幼い少女だった。
――少女?
脳裏に女性の姿が浮かぶ。少女だったときのあどけない姿。年を重ねて夫人となった姿。老いさらばえて安楽椅子に座る姿。
Jにはどれも並列に感じる。同じ人間である以上、少女の彼女も、老婆の彼女も、同じ記号で呼ばれる人間だ。
その記号で呼ぶとき、彼女はJの脳裏に老婆の姿で現れたとしても、Jは彼女を少女だと認識した。
彼女はJをジャクと呼んだ。
その頃はそんな名前で呼ばれることが多かった。ジャックだったり、邪気だったり。
どうして名前を聞くのだろう。
彼の主人となる人間はいつも、彼と会ったときに名前を知りたがった。Jは答えを持っていない気がしたが、それでは納得してもらえない。しかたなくそれ以前に呼ばれていた名前を答える。
最初のコメントを投稿しよう!