ある夜

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ユーミンが動いた。眠りが浅くなったのか、寝返りを打つついでに布団から少し顔を出す。 「…………」 吐息と一体化した声で小さくJの名を呼んだ気がした。 軽く返事を返す。はっきり起きたわけではない。少女はすぐに目を閉じた。 ――ジェイ。 耳に届いた声がなぜか過去の音声を呼び起こす。 ――ジャク。 ひどく古い記憶だ。いや――ひょっとすると案外最近なのかもしれない。年を取る感覚がないので、はっきりとは思い出せない。何代か前の主人だ。やはり、幼い少女だった。 ――少女? 脳裏に女性の姿が浮かぶ。少女だったときのあどけない姿。年を重ねて夫人となった姿。老いさらばえて安楽椅子に座る姿。 Jにはどれも並列に感じる。同じ人間である以上、少女の彼女も、老婆の彼女も、同じ記号で呼ばれる人間だ。 その記号で呼ぶとき、彼女はJの脳裏に老婆の姿で現れたとしても、Jは彼女を少女だと認識した。 彼女はJをジャクと呼んだ。 その頃はそんな名前で呼ばれることが多かった。ジャックだったり、邪気だったり。 どうして名前を聞くのだろう。 彼の主人となる人間はいつも、彼と会ったときに名前を知りたがった。Jは答えを持っていない気がしたが、それでは納得してもらえない。しかたなくそれ以前に呼ばれていた名前を答える。     
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