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自問自答を繰り返して、榎木は部屋の天井を見上げた。明かりをつけていない部屋は、窓からの光しか入らずに薄暗い。
本来白い天井が、灰色になっていた。いつの間にか、夜が深まっていたんだと、その時になって気がついた。
そんな灰色の天井を見ていると、ふと、あることを切望した。
(――ああ、拳銃が今、手元にあれば良いのに)
榎木はずっと、あの時の、あの感触が忘れられなかった。高村の背中を押した時の、あの重量感、高村の最後の声……。
日吉の肉体を刺した時の、あの感触。ズブ、という音と、何とも言えない、やわらかさ。
でも、鉄が骨にあたるのが、手に響いて、自然と震え出すあの恐怖。
遠距離からなら、拳銃なら、あの感触を感じなくて済む。だから榎木は拳銃が、欲しいと思った。
だけどそんなことは無理だった。だから、榎木は心が空になるのを知らないふりをした。
それから榎木は計画を考えた。
それが終わると、呉野の家の近くの廃ビルに下見に行った。ヤンキーがバイクで出かけていくのを外で待って、脱出計画を試してみた。
案の定、上手くいった。
大丈夫。人は本来、自分の目線より上や下は見ないものだ。ましてや、呉野が落下してくれば、自然と人は地面に釘付けになる。誰も路地の上なんか、見やしない。自分に言い聞かせた。
あとは、時が過ぎるのを待つだけ。榎木はいったん家に帰り、眠りに着いた。
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