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第十一章・あなたを想う
榎木は日吉に高村の事で写真を撮ったと脅されたことが日吉を殺した原因だとだけ言って、呉野を殺すに至った経緯は簡潔に話した。それを聞いた要は、責めるように声を尖らせた。
「眠った? 眠ったんですか? これから人を殺そうっていうのに?」
「そんなに、信じられないって顔しないでくれる? 吉原」
そう言って少し自嘲気味に微笑んだ榎木に、要は嫌悪感をあらわにした。
「笑うの止めてくれませんか?」
可哀想なのはアンタじゃないんだよ。心の中で、要はそう毒づいた。要の眼には、榎木は悲劇のヒロインを気取っているだけの、自己中心的な嫌悪する対象に見えたからだ。それは、要だけではない。
「何でそんなに怒ってるの?」
「怒ってない。呆れてるんだよ」
「ムキになっちゃって、いつもオチャラケてる吉原らしくないんじゃない?」
「要じゃなくったって怒るわよ! 呆れ果てるわ!」
あかねがそう怒鳴ると、秋葉も由希も頷いて侮蔑する。
「信っじらんねぇ」
「どうしてそんなことが、出来るの? 同じ人間なのに……」
榎木は「何よそれ」と苦笑して、感情をむき出しにした。
「信じられない? 人間なのに? 人間だからよ。人間だから出来るのよ! 兵士は人を殺すでしょ? 慣れれば何のためらいも無く殺せるのよ。正義感なんて振りかざさないでよ。信じられない? でも、実際私はそうだったの。初めて人を殺した時、とても恐くて怖くて、何日も何週間も眠れなかった。でも二回目、日吉を殺した時は、三日で眠れるようになった! 呉野の時なんかその日の内に眠れた! そういうものなのよ!」
「……おかしいんじゃない?」
あかねは信じられないという顔をして涙をうっすらと浮かべた。由希、秋葉も驚愕と嫌悪が入り混じった表情をしていた。要と三枝だけが、ただ榎木を見つめていた。その表情からは感情をうかがい知ることは出来なかった。
あらゆる視線を送られた榎木は、俯いて呟く。
「……解らない事よ。解らないことだわ」
だって、私は悪くないもの。続く言葉を榎木は飲み込んだ。
その姿を見た要は、ゆっくり口を開く。
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