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皆が一瞬ドキリとし、自分のじゃないかと確認すると、あかねが電話を取った。
「はい、もしもし!」
「お前、携帯ぐらい切っとけよなぁ」
秋葉が小声で文句を言うと、あかねはいきなり叫び声を上げた。
「ええ! 本当ですか!?」
近くにいた秋葉は思わず耳をふさぐ。
「何だ!?」
あかねを睨むと、あかねは嬉しそうに「はい、はい」と答えていた。そんなあかねを要達は何事かと見つめていた。三枝は、要達を尻目に榎木に近づき、声をかけた。
「榎木、一緒に警察に行きましょう。自首ならば、罪は軽くなりますから」
榎木は何かを考えるように、三枝を見つめた。
そして、深く頷いた。
榎木の顔は、先程までの剣のある顔ではなくなっていた。
憑き物が落ちたような、穏やかで、罪の意識をどこかで感じているような、そんな表情だった。
榎木も心のどこかでは、自分の罪を暴いて欲しかったのだ。
ただその気持ちを、受け入れる事が出来なかっただけで……。
あかねの周りに集まり、あかねに注目している事を確認するように、要達を凝視しながら三枝は榎木を部屋の外に連れ出した。
要達は結局わけが分からないまま、あかねは電話を切った。
するとあかねはもの凄い勢いで振り返って、歓喜の叫びを上げた。
「呉野先輩がぁ! 目を覚ましたぁ!」
「本当かよ!?」
「うそ!?」
「マジでぇ!?」
「……良かった」
思い思いに言葉にすると、要達は言葉を飲み込み、パワーを溜め込み、爆発させた。
「ヤッタぁ――!!」
その歓喜はすでに階段を、三階程下りた榎木と三枝の耳にも届き、榎木は心の底でほっとした気持ちを見つけた。
不意に三枝が歩みを止めた。
つられて榎木も止まると振り返った。
ちょうど、三枝の胸の位置で止まり、三枝を見上げる形になった。
その頃、要はある事に気づいてはっとした。
「三枝先輩と榎木先輩は!?」
「え?」
問われたあかねは戸惑いの表情を要に向けた。いつになく要が焦っているのが解ったからだ。要はすばやく辺りを見回すが、二人の姿はない。
「――やばい!」
要は小さく叫んで、急いで部屋を出た。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
その後をあかね達は戸惑いながら追った。
* * *
三枝は、ゆっくりと口を開いた。
「呉野、助かったみたいですね」
そう言った三枝の目に色はなかった。
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