第十一章・あなたを想う

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「榎木は、日吉と同じです。もしかしたら本当にいじめたかったのは、殺したかったのは、自分自身なんじゃないですか? こんな自分を殺して、変わりたかった――こんな自分を叱って欲しかった。日吉も、榎木も、きっと〝愛されたい〟し、何かを〝愛したい〟んです。ボクには、解るですよ。榎木、榎木の〝秘密〟が無くっても、きっと、榎木なら、愛されます。僕には解る――」 (――ああ、そうだ)  榎木はあの時、呉野の言葉を遮って、呉野の首を掴んだ。  聞きたくなかった。それを聞いて、認めてしまったら――榎木は自分の罪に耐えられなかったからだ。  世界で唯一、欲しかったものはすぐそばにあった。  でも、彼女は自分の手でそれを壊した。  階段を転がり始めた榎木は、強く目を瞑る。 (呉野、あんたの言った言葉は、私にとってなによりの真実だった。――そうよ。私は愛されたかった。自分に自信が無くて、疑心暗鬼にいつも陥って。霊感が無きゃ、嫌われる。霊感が無きゃ、独りになる)  孤独(ひとり)は怖い。でも、榎木が孤独に陥るのは、霊感が無いからじゃない。自分が弱いからだ。  人を信じず、なにも、愛さなかったからだ。  榎木は、やけにゆっくりと転がっていく視界の中で、呉野を強く想った。 (そうだよ、呉野……あんたの言うとおり。私は自分を、殺したかった。こんな私を、止めて欲しかった。――ごめん、ごめんね。こんなに、身勝手で)  愛してくれと、狂気を他人に押し込んで。  解ってくれと、狂気を他人に突き刺して。  ――でもね、呉野……変色してゆく感情を、止める事など出来なかった。                          
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