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「美麻のこと、絶対、絶対幸せにしてくださいね!」
「ああ。約束するよ。
それと俺からも。美麻のこと、これからもよろしくお願いします。」
不思議な感覚だった。
あの頃の私が見たら、信じられない光景だろう。
目の前で唯ちゃんと慶斗さんがこんな会話を交わしているなんて。
唯ちゃんには、感謝してもしきれない。
私が車に乗るまで笑顔で見送ってくれた唯ちゃんに、車に乗る直前、今度は私からハグをした。
「唯ちゃん…本当に、本当にありがとう。またこっちにも帰ってくるから。また連絡するからね。それと、元気な赤ちゃんが生まれてくることも祈ってる。」
「うん、ありがとう。またいつでも帰って来てよ。待ってるから。」
「うん。それじゃ、唯ちゃんのお腹が冷えたら困るからもう行くね。唯ちゃんも気をつけて帰って。…じゃあ、またね!」
と、助手席の窓を開けて唯ちゃんが見えなくなるまで彼女に手を振った。
今日という日が、また一つ特別な一日になった。
夜空に浮かぶ、丸くて大きな月を眺めながらそう思った。
一方、車が見えなくなり一人になった唯ちゃんの口からぽつりとこぼれ落ちた。
「…これで奴も安心して、やっと前に進めるでしょ。」
それは誰の耳に届くともなく夜の空へと消えていった。
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