12人が本棚に入れています
本棚に追加
/73ページ
ピンクのパンツが丸見えだ。
いつもの朝。満員電車の中で、ふと目に飛び込んだものに、僕――蝉丸大輔（せみまる・だいすけ）は固まった。
え？ 僕、まだ夢の途中？ 高校一年生という、暴走する思春期が僕に幻を見せてるの？
いったん眼を閉じ、深呼吸して目を開ける。
パンツはやはり目の前にあった。
こちらに背を向けて立っている女子の制服は、僕が通っている私立百人高校のものだ。 チェックのスカートがパンツの腰のところに引っ掛かり、見事に捲れ上がっている。
マジか。漫画ではたまに見かけるけど、どうしたらこうなるんだ？
いや、パンツもいいが重要なのは顔だ。可愛いのかな？ 見たい。
いやそもそも見ない方がいい感じの子かも知れない。
いや、それはそれで確認したい。
いやいや……。
一瞬で脳みそがフル回転し、回転数分、あるいはその倍パンツを見たあとで、僕はやっと理性に従って視線をはね上げ、天井で揺れる中吊り広告を見つめた。
『アイドルの矜持は？頻【パツ】するアイドルの熱愛発覚』
『教育施設を狙う【ピンク】のプレゼント！連続爆弾魔・通称プレゼントボマー』
『疑惑の汚職議員、ホステス呼んで連夜の【ノーパン】シャブシャブ』
駄目だ、ピンクパンツ関連の言葉だけ勝手にピックアップされてしまう。大変マズいぞ。
大体、パンツの彼女的にもこのままでいいはずがない。恥をかき続けるわけだし。
だからと言って僕が一声かけるのか？
「すみません、パンツモロ見えですよ」
……僕と同じ高校生男子が堂々とそれを言えたら、僕はそいつを生涯尊敬する。
しかも、至近距離でパンツ丸出しのお尻に体触れそうだし。
これ、やっぱり体触っちゃったらアウトなんだろうな……。
『満員電車でも堂々。大胆すぎる肉食系痴漢男子』
痴漢冤罪だとしても、中吊り広告に仲間入りなどしたくない！
誰か、他に気付いてる奴はいないのか？ ＯＬのおねえさんとか！
僕はカメレオンばりに眼球を動かし、回りの乗客を見渡した。
OLのおねえさんはいなかったが、その代わりに僕は隣に立っているお兄さんに気付いた。
僕より少し年上っぽい、ラフな格好にトートバッグを肩から提げたそのお兄さんは――目をまん丸にしてパンツをガン見していた。
最初のコメントを投稿しよう！