プール

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この学校のプールは「でる」 ごくごくありふれた怪談話。ちょうど季節は夏で水泳の授業の真っ最中だ。どうやら最高気温を更新するようだと今朝のニュースで言っていた。水着は体のラインが出るから恥ずかしい。女子だけの授業で助かった。これが小学生のように男女混合なら顔から火を吹いて死ぬ自信がある。一人で内心ほっとしている。クロールや平泳ぎ、先生の指示通りみんなが二十五メートルを泳いでいく。最後に私の番、冷たい水の中に入って先生の合図を待つ。ふと泳ぎだす直前、例の怪談話が思い浮かんだ。   水面がきらきらと日光にあたって光る。プールサイド、水着のまま、辺りを見回しても誰もいない。先生も友だちも。そんな中、軽い水音が鳴る。驚いてそちらへ目を向けると、茶髪で同じ水着姿の女の子が、顔の上半分だけ水から出している状態でこちらを見ていた。顔に見覚えはない。ただ名前の書き方が旧式で名字だけでなく出席番号まで書かれている。彼女は水から顔を出しこう言った。 「あなた、何でここにいるの」  「……」  尋ねられたが言葉が出ない。何故、と問われてもこっちが聞きたい。授業はどうなったのか、私は泳いでいたはずだ。ベストタイムさえ出してしまえば、成績上位に入る。唯一の科目なのに。 「あぁ、気づいていないの」  「え?」  「何でもない、こっちの話。あたし桃子っていうの、あなたは?」  「由紀、佐藤由紀」  「由紀、ね。由紀は好きな人いるの?」  矢継ぎ早に質問攻めだな。言葉に詰まる。その沈黙を彼女は肯定と捉えた。 「……」 「やっぱり。どんな人?男の子?」 「男の子に決まってるじゃない。カッコよくて物憂げな感じの、人」 「うわあぉ、好みが特殊」 「うるさい」 顔が熱い。気温のせいだけではなさそうだ。手のひらをほっぺにそえる。冷たい感触が気持ちよかった。  「告白は?」  「……してない」  「いいの?もう三年生でしょ?」  「何で知ってるの」 彼女は自分の胸をとんとんと指さす。名札か。そういえば学年とクラスも書かれていた。  「だって私なんて視界に入ってないよ」  「当たって砕けろでしょー女子は」  「それ何も女子に限ったことではないよね」  「じゃあ、玉砕覚悟?」  「同じじゃん」 くすっと笑ってしまった。手を口元にあてようとして気づく。
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