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1. 冴島晃【さえじま あきら】
早く終わらないかなと思いながら、キスをする。
求められるがまま相手の背中に腕を回して、粘膜を接触させる。
そのひどく柔らかい感触に、お腹の底で凍てついた鉄の棒が、周りの肉を凍傷で腐らせるような感覚に陥る。
単純に言えば、気持ち悪いのだ。
微かに震える手に、相手は勘違いして更にキスが激しくなる。
前髪の上から落とされる口づけも、髪を触る手も、?に添えられる指も、全てが違和感でしかない。
人は、特に男性は、唾液の中に含まれる興奮物質を相手に飲ませることで、相手の性的興奮も高めようとして、キスをする。
生物として、それは間違ったことではない。子孫を残す、という生物として最大にして最優先の本能なのだから。
「……すき」
恋愛感情とは何なのだ。
今囁かれた"好き"という感情は、どうしてある?
生物の進化は突然変異で進むものであり、雌雄による有性生殖は進化に必要がない。
大事な遺伝子のシャッフルは、無性生殖でも行えるのだから。
だからと言って、どうして雌雄が出来たのか、その必要性の完璧な説明は未だ出来ないそうだ。
学者に分からないなら、私に分かるはずがない。
とにかく何が言いたいのかと言うと、キスなんて気持ち悪いと言いたかっただけで。
特に生物学的にだとか、本当はその説が間違ってるかとかどうだとかはどうでもいい。
私の腹の中の内臓が、全て凍えて腐る前に、とにかく早く、この行為が終わって欲しかった。
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