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予め設定していた携帯のアラームが鳴った。
そろそろ時間か。佐上は目の前の段ボール箱から顔を上げ、携帯に腕を伸ばして鳴り響くメロディを止めた。
胡坐をかいた自分を取り巻くのは、いくつかの段ボールと、そこからあふれ出た本やプリントの山だった。近くにあった小学校五年生の時の教科書とノートを見てげんなりする。
『五年生 国語』
『生活日記 五年三組 佐上良哉』
「母さん、何でこんなもんまだとってんの……」
問題は教科書よりノートの方だ。これは担任に向けて、当時の日々を徒然と綴った日記帳ではないか。しかも小学五年ともなると、なかなかに恥ずかしいことを赤裸々に書き込んでいた時期のような気がする。――手を伸ばしかけたが、見る勇気は出ないので心の中で誓う。
(この黒歴史は早々に処分しなければ)
一人っ子で、何もかもが記念だと大事にとっておいたというのならまだ納得できなくもないが、佐上には二つ上に兄がいて、二人兄弟だった。
恐らく、一応取っておいたは良いがそのまま整理をするのが面倒臭くなったクチだろう。だが下手に母親に整理されて、先程のような日記帳を勝手に見られていたらと思うとぞっとする。
「……とりあえず用意しよ」
今夜は久しぶりに中学時代の友人とご飯を食べに行く約束をしていた。
佐上は目の前の状態から現実逃避をするかの如く立ち上がりかけ、ふと一つの段ボールの一番上に乗った卒業アルバムを見つけた。白い外箱に印刷された金色の文字を見て、それが中学の時のものだと気付く。
意外と厚さと重さのあるそれを手に取って、外箱を外し適当に中を開くと、途中のページに数枚のスナップ写真が挟んであるのを見つけた。
「懐かし……」
小さく呟きつつ、はたと思いついてスナップ写真を抜き取り、卒業アルバムは元に戻して立ち上がる。
写真を今日持って行く予定の鞄の中に突っ込み、佐上はいそいそと支度にかかった。
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