アルバムの中に隠された笑顔

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 彼女のことを話そうと思うのは、今も昔も相手が夏李だからに他ならない。目の前に座るこの男は、恐らく誰よりも彼女のことを知っているからだ。 「オレみたいな男子よりよっぽどカッコ良くて、性格も男前で……」  同じクラスだったのは一年生の一年間だけだったが、クラスが離れても、たまに廊下ですれ違うと声をかけてくれた。彼女はだいたいいつも誰かに囲まれていたから、佐上からはなかなか声をかける勇気がなく、何気ない短い会話が嬉しかったのを覚えている。 「でも、本当はすごく女の子っぽい所もあって」  佐上にとって彼女は、決して男友達のノリで付き合える人ではなかった。  他の女子の中でも一際輝いて見える、特別な女の子だった。 「……って、お前、ちゃんと聞いてる?」  佐上は気分が高じて写真の中にいる彼女をじっと見つめていたから気付かなかったのだが、ふと夏李を見ると彼はいつの間に取り出したのかスマートフォンをいじっていた。 (人が折角、昔の青春染みた話をしてるのに……こいつは)  夏李は「聞いてる聞いてる」と生返事をし、およそ一分後にスマートフォンを脇に置いて再び佐上を見遣った。 「悪い悪い。で、何だったっけ? こいつが何だって?」  まるで今までの佐上の話を全く聞いていなかったかのようなセリフだ。  佐上は若干イラッとしつつも、ため息を一つ吐いて続けた。     
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