第1話

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 テラスの客から一部始終が丸見えだというのに背の高い男性と中年の夫婦が周囲も憚らない大声で言い争っていた。 「うるせぇ! ちゃんと会ってやったし相手の面子も潰さねぇように場は取り繕っただろうが。何が不満なんだ」 「彰吾! 相手は専務のご令嬢よ。とても綺麗なお嬢さんだったじゃないの。どうして断ったりするのよ」 「俺の好みじゃねぇ。文句あるか?」  両親がお膳立てしたお見合いを息子が突っ撥ねたのが喧嘩の発端だった。母親が言い負けると今度は父親の出番だ。 「彰吾、お前にとって今が一番良い時なんだ。大手の会社に顔を売り込んで繋がりを作る絶好のチャンスなんだ。それが解らない程子供でもないだろう?」 「俺は親父の会社をでかくする為の道具じゃねぇ。俺の人生を会社の駒みたいに扱うな」  正にけんもほろろ。息子は両親の言葉を片っ端から跳ね付けていた。  言動から察するに相当癖の有りそうな性格だが息子の見目はなかなか良かった。鼻梁の通った顔立ちで肌も健康的な小麦色だ。背も高く、着崩したスーツが少し尖った性格をほのめかせていて印象的だ。言い争っている声も低く渋い。  余り見詰めては失礼だが、同性でも魅力的だと思える彼から潤は視線を外せなかった。     
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