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「……もしかして、遊域高校の土居(つちい)迅太選手ですか? マラソンの」
「? そうだけど?」
それを聞いた途端、弥子は持っていたアイスをソファに置いて、立ち上がった。頬は高揚して赤く染まり、何か言おうとする口を押えて、目を見開いている。
「春期大会のマラソン、私、お父さんと見に行ってて……一年生なのに、三年生抜かして一番でゴールしてて、走り切った後みんなしんどそうなのに、一人だけ笑顔でインタビューとか受けてて………あの、私感動して………えと、えと……」
口早に言う弥子だがパニックにより目を回し始めた。
「おおお? ありがとう! とりあえず落ち着こうか!!」
迅太も予想外の事なのか、弥子の肩に手を置いて、無理矢理座らせた。
「ままままさか、こんな近くに住んでるなんて………未来ー! なんで、教えてくれなかったの!?」
パニックの矛先は未来に向かった。
「え? 弥子が迅太兄さんの事知ってるなんて、知らなかったよ」
「でも、こんな有名人住んでるなら、教えてくれてもよかったのに!」
弥子のその発言で、吹き出したもの約一名、
「えーと、弥子ちゃんだったな」
風夏が近づいてきた。
「下の子たちは迅太が施設外の人にそこまで認知があると思ってないんだよ。恨まないでやってくれ」
風夏の冷静な一言で、弥子は頭が冷えたのか、シュンとうなだれた。
「ご、ごめんなさい。私…失礼でしたね……」
「いやいや。弥子ちゃんのおかげで、迅太も一応兄さんとしての風格がでてきたよ!」
美咲が弥子をカバーして、
「普段アホの子にしか思われてないからな」
風夏が迅太を叩き落した。
「風夏ぁ……」
「よかったなぁ、未来世代にもお前のファンがいて。弥子ちゃん握手してもらいなよ」
「ええ!? いいんですか?」
「おお、いいよー」
落ちていた迅太は弥子のおだてに簡単に乗った。
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