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彼女のスマートフォンにはセレンディピティというアプリが入っている。
そのアプリをタップして語りかけるか、メッセージを送信すると幸運を引き寄せることができる。
もちろん、100パーセントではないが、幸運はかなりの高確率で訪れる。
その晩もセレンディピティは威力を発揮した。
東京都下のある地方都市。
そこの所轄の警察の駐車場に彼女を乗せた黒いリムジンが滑り込み音もなく停車した。
深夜、少し前に日付が変わった時刻。
街は寝静まり、二車線の公道を走る車は2、3分に一台しかいない。
エンジンを切るとハンドルを握っていた若い男は車を降り、後部座席のドアを開けた。
降り立った彼女はドライバーの若い男よりさらに若い。
夜のような黒髪、星空のような瞳が印象的な彼女は闇のような黒いコートを着て警察の駐車場に降り立った。
都下とはいえ田舎のようにのどかな街なのであたりはシンと静まり返っている。
それでお5階建ての警察署の窓は明るく真夜中でも署員が働いていることが想像できた。
「8、建物内に署員がたくさんいそうだけど、大丈夫なの?」
彼女は尋ねた。
8とは車を運転してきたドライバーの若い男の名前だ。
彼は頷いた。セレンディピティは効いているのだ。
「さあ、Q、行こう」
若い男が彼女に囁いた。Qが彼女の名前だった 。
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