1 彼どんなモノにでもピカピカに輝いていた時はある。

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どんなモノにでもピカピカに輝いていた時はある。 それが一瞬か、長い間か、期間の長さに違いはあれど。 郊外にある、そのマンションは眩しいほど輝いていた。 今から20年前の話だ。 若い夫婦がそのマンションを購入した。 そして、3年目に一人息子が生まれた。 両親に愛されながら彼はすくすくと育った。 長男・長女によく見られるパターンだが、一人息子は親の言うことをよく聞き、両親の期待に応えようと小さい時から頑張った。 おかげで幼稚園の時に聞き分けの良いよくできる子と評判になった。 親は誇らしい気持ちになった。 その頃から、少しずつだが彼らの家のあるマンションは輝きを失い始めた。 外壁に雨スジ汚れが目立つようになり塗装の劣化が始まる。 マンションの劣化は微々たるものだったが、かつての輝きはLED照明を調整するように確実に光量を失った。 その代わり、男の子は小学校に上がりピカピカの1年生になった。 両親の期待を一身に受け止めて幼い息子は頑張った。 学校から帰ってくると塾に通い、ピアノ、水泳、英会話、絵画、テニスを習った。 小学生のスケジュールは暇なサラリーマンよりハードなものになった。 勉強もスポーツもでき、リーダーシップをとれ、時々、みんなを笑わせる冗談をいうので常にクラスの人気者だった。 バレンタインデーになると毎年、山のようなチョコを貰った。 卒業アルバムには「将来、スティーブ・ジョブズのような起業家になりたい」と書いた。 中学になると、なぜか親の言い分がウザくなってきた。 マンションの外壁の劣化は相当進んでおり、排水管が変な音を立てることもあった。 管理組合で「そろそろ本格的な補修工事を」という意見は出たがなかなか満場一致にはならず工事は先送りされていた。 彼の両親も息子が大人になりかけているという事実認識を先送りしていた。 いつまでもこの子は子供なのだ、赤ちゃんなのだ、と思い込もうとしていた。
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