1 彼どんなモノにでもピカピカに輝いていた時はある。

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その朝、目がさめると体が異常に怠かった。 病気だ、と思った。 昨日まであんなに元気だったのに、なんの前触れもなく病気になるなんてついていない。 息苦しい。 体が重い。 鉛のように重い。 ベッドに横たわったまま目を恐る恐る開いた。 視界が悪いような気がする。 目をこするが治らない。 その時、自分の手を見て驚いた。 むくんでいるのだ。 昨日と比べると手が倍くらいに膨らんでいる。 いや、手だけではない。 顔に触れると輪郭が変形するほど腫れている。 胸や腕を触ると昨日まであった筋肉が消え失せている。 それどころか今までにない感触がする。 ベッドから体を起こし縁に腰をかける。 それだけでも息苦しい。 昨日までぶかぶかだったパジャマが張り裂けそうなくらいパンパンになっている。 どうしたんだ。 勉強机まで数歩の距離だがよろけそうになる。 机の上の卓上ミラーを覗き込んだ。 いつもなら青春を謳歌する精悍なイケメンが鏡の向こうに現れるのにその日は違った。 ボテボテに太った疲れた中年が鏡の向こうからこちらを呆然とした表情で覗き込んでいた。 その顔には見覚えがあった。 父親の顔だった。 彼は一夜にして16歳の青年から50歳の中年に変身してしまったのだ。
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