□運命の番□

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「ただいま。カナタ……ん?」  シイバが微笑みを消し、代わりに困惑を浮かべる。どこか格好におかしなところがあっただろうか。カナタが視線を落して確かめていると、シイバが抱きつくようにして首に顔を寄せてきた。そのままスンと息を吸う。 「気のせいか……?」 「え?」 「桃の匂いが」 「あ、クリーム……かな」  今日のためにいつもより丁寧に肌を手入れしたせいで、ボディクリームの香りが強く残っていた。シイバがカナタは桃の匂いだと言うから、身にまとうものはわざわざ桃の香りのものを選んで使っている。 「ん……そうか」  圧し掛かった体勢のままで言われてくすぐったい。カナタはじわりと肌温度をあげる。ふたりきりだ。しん、と静まった部屋なんていつぶりだろう。 「すぐに出かけるか?」  一度寄り添った身体は離れることを拒んでいる。玄関先に立ち尽くしていても仕方ないと思うのにカナタはシイバの胸元に手を置いたまま、俯いていた。  ちゅ、っと音を立ててシイバが頬にキスをする。どうしようかとカナタを促すように。  言ってもいいのか、カナタは逡巡する。 (せっかく食事の予約も入れているのに)  けれど今、シイバと抱き合っているほうがカナタには嬉しい。このまま出掛けずにくっついていたいって言ったらシイバをがっかりさせるだろうか。
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