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「ランチタイムは終わりましたが、よろしいでしょうか?」
カナタが確認すると男はうなずいた。
他の客との距離をみて、窓際の二人掛けの席へと案内する。メニューを手渡しながらカナタは知らず、知らず男に見とれていた。カットして間もなさそうな黒髪は綺麗にセットされている。鼻梁が高く、他のどのパーツも主張が強い顔だ。けれど、それらがすっきりと調和した顔は男らしく、色気すら滲む。
(素敵な人……だけどアルファの匂いがしない)
近くに寄れば当たり前のようにアルファのフェロモンが香るものと思っていた。けれど手が触れ合うほどの距離に立っても男からフェロモンを感じ取れない。そのことが不思議でならなかった。
アルファというのはフェロモンの分化により現れる第二の性の中で、ヒエラルキーのトップに立つ存在だ。差別など時代錯誤と言われているが、生まれ持っての能力差の前ではその主張が表向きのものでしかないことなど誰もが知っている。
その優秀さは外見にもにじみ出るため、大抵のアルファは見た目だけでも分かる。自信に満ちた彼らは時に不遜で傲岸だった。
全てにおいて秀でた能力を持つアルファが人口の二割弱。その下に人口の七割を超えるベータ。さらにその底辺付近にオメガがいる。
オメガは生殖に優れた性で、男女の別なく妊娠、出産をすることが可能だった。ひと昔前にはその稀少性から王宮の寵姫となった人物もいた。その一方で、奴隷市場で売られていた者もいる。時代や宗教により、オメガの扱いは様々だった。
そんな歴史を持つせいか、オメガはアルファのフェロモンに敏感だ。オメガの生まれ持つ本能にくっきりと刻まれていること。それは『アルファの子種が欲しい』ということだ。
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